2025年、宙づり国会を操るのは国民民主党か?決定的な交渉力の源泉となる2つのデータ
2025.1.6 足立 康史
2024年の政界は、前年の秋に顕在化した「パーティー裏金事件」をきっかけに自民党への批判が沸騰し10月の総選挙で自公与党が過半数割れ、戦後政治の中でも珍しいハングパーラメントが誕生した。
もちろん、これまでも選挙の結果、従来の与党が過半数割れすることがあるにはあったが、連立工作や無所属議員の追加公認等により多数派内閣を樹立することに成功してきたのが戦後日本の政治史だった。いわゆるハングパーラメント(=宙づり国会)自体は新しいことではない。
もちろん、衆議院における本格的なハングパーラメントは1993年の自民党下野以来31年ぶりとなるため、永田町に衝撃が走ったが、今回のハングパーラメントの際立った特徴は、そうした「宙づり状態」が連立等により解消されることなく、あるいは政権交代することなく、少数与党のまま組閣され、昨年の臨時国会も平穏に閉幕したことにある。
2025.1.6 足立 康史
2024年の政界は、前年の秋に顕在化した「パーティー裏金事件」をきっかけに自民党への批判が沸騰し10月の総選挙で自公与党が過半数割れ、戦後政治の中でも珍しいハングパーラメントが誕生した。
もちろん、これまでも選挙の結果、従来の与党が過半数割れすることがあるにはあったが、連立工作や無所属議員の追加公認等により多数派内閣を樹立することに成功してきたのが戦後日本の政治史だった。いわゆるハングパーラメント(=宙づり国会)自体は新しいことではない。
もちろん、衆議院における本格的なハングパーラメントは1993年の自民党下野以来31年ぶりとなるため、永田町に衝撃が走ったが、今回のハングパーラメントの際立った特徴は、そうした「宙づり状態」が連立等により解消されることなく、あるいは政権交代することなく、少数与党のまま組閣され、昨年の臨時国会も平穏に閉幕したことにある。
560 への返信コメント(6件)
>>560
そして、石破茂内閣は発足当初こそ不安視されたが、ふたを開けてみれば野党間の鍔迫り合いを利用して分断を図り大過なく補正予算を成立させた。
年末の会見でも石破総理は、国会運営を振り返り「熟議の国会にふさわしいものとなった。少数与党で自分たちの意見がそのまま通るわけではないが、一歩でも前に進むことが大事」としつつ、「ハングパーラメントの妙味を最大限生かしながら目指すべき日本を確立したい」と余裕さえ見せた。
なぜ自民党の石破総裁は連立交渉をしかけなかったのか。結論を急げば、出来なかった、というのが答えになるだろう。
今回の総選挙では、自公与党が過半数に届かなかっただけでなく、小政党が躍進した。左派ではれいわ新選組が9議席を獲得し共産党の8議席を上回り、右派では日本保守党と参政党がそれぞれ3議席を獲得した。労働組合や宗教団体、地域団体、農業団体といった既存政党の支持基盤が弱体化し、多党化が一層進んだと評価してよいだろう。
そして、石破茂内閣は発足当初こそ不安視されたが、ふたを開けてみれば野党間の鍔迫り合いを利用して分断を図り大過なく補正予算を成立させた。
年末の会見でも石破総理は、国会運営を振り返り「熟議の国会にふさわしいものとなった。少数与党で自分たちの意見がそのまま通るわけではないが、一歩でも前に進むことが大事」としつつ、「ハングパーラメントの妙味を最大限生かしながら目指すべき日本を確立したい」と余裕さえ見せた。
なぜ自民党の石破総裁は連立交渉をしかけなかったのか。結論を急げば、出来なかった、というのが答えになるだろう。
今回の総選挙では、自公与党が過半数に届かなかっただけでなく、小政党が躍進した。左派ではれいわ新選組が9議席を獲得し共産党の8議席を上回り、右派では日本保守党と参政党がそれぞれ3議席を獲得した。労働組合や宗教団体、地域団体、農業団体といった既存政党の支持基盤が弱体化し、多党化が一層進んだと評価してよいだろう。
🔴>>560
しかし、そうした一桁の議席しかない小政党は、自民党による多数派工作の対象としては力不足だった。ハングパーラメントにおけるキャスティングボート政党の発言力を数値化した指標に♦️「シャプレイ値」がある。
2012年にノーベル経済学賞を受賞したシャプレイ博士によるもので、10政党の中でランダムに政党をひとつずつ順番に政党連合に加えていく作業をすると、過半数連合を形成するやり方は全部で10!=362万8800通りあるが、どの政党がどれだけキャスティングボートを投ずることができたかを計算するのがシャプレイ値(シャプレイ・シュービック指数)だ。
このシャプレイ値を見ることで、実際の獲得議席数とは異なったハングパーラメント下の政党の交渉力が浮かび上がる。一橋大学経済学研究科の竹内幹准教授によると、立憲民主党は148議席あるがシャプレイ値は低く73名相当。
そうした中で、議席数より交渉力が大きく膨らむのが、日本維新の会38議席の62名相当と国民民主党28議席の38名相当となる。野党第1党は不利、野党第2党、第3党は有利というのが可視化される。
しかし、そうした一桁の議席しかない小政党は、自民党による多数派工作の対象としては力不足だった。ハングパーラメントにおけるキャスティングボート政党の発言力を数値化した指標に♦️「シャプレイ値」がある。
2012年にノーベル経済学賞を受賞したシャプレイ博士によるもので、10政党の中でランダムに政党をひとつずつ順番に政党連合に加えていく作業をすると、過半数連合を形成するやり方は全部で10!=362万8800通りあるが、どの政党がどれだけキャスティングボートを投ずることができたかを計算するのがシャプレイ値(シャプレイ・シュービック指数)だ。
このシャプレイ値を見ることで、実際の獲得議席数とは異なったハングパーラメント下の政党の交渉力が浮かび上がる。一橋大学経済学研究科の竹内幹准教授によると、立憲民主党は148議席あるがシャプレイ値は低く73名相当。
そうした中で、議席数より交渉力が大きく膨らむのが、日本維新の会38議席の62名相当と国民民主党28議席の38名相当となる。野党第1党は不利、野党第2党、第3党は有利というのが可視化される。
>>560
そして、一番有利なはずの野党第2党・日本維新の会は、前回から294万票(36.6%)減の510万票にとどまり、国民民主に比例票で野党第2党の地位を奪われた。
こうした維新の比例票の減少率は自民党の26.8%減よりも大きく、選挙後の臨時党大会で馬場伸幸代表の事実上の不信任が可決され代表選挙に突入、一番大事な11月を棒に振ることとなる。そこで、いわゆるキャスティングボートを握ったのが、前回の259万票から617万票へ約2.4倍に比例得票を伸ばした国民民主党だったのである。
自民党の石破総裁には日本維新の会あるいは国民民主党と連立を組む選択肢もあったはずだが、2025年7月の参院選はじめ当面の政治日程を視野に、いずれの政党も与党自民党と距離を置くこととなる。自民党と連立を組んだ結果、一緒に沈んでは元も子もないからである。
そして、一番有利なはずの野党第2党・日本維新の会は、前回から294万票(36.6%)減の510万票にとどまり、国民民主に比例票で野党第2党の地位を奪われた。
こうした維新の比例票の減少率は自民党の26.8%減よりも大きく、選挙後の臨時党大会で馬場伸幸代表の事実上の不信任が可決され代表選挙に突入、一番大事な11月を棒に振ることとなる。そこで、いわゆるキャスティングボートを握ったのが、前回の259万票から617万票へ約2.4倍に比例得票を伸ばした国民民主党だったのである。
自民党の石破総裁には日本維新の会あるいは国民民主党と連立を組む選択肢もあったはずだが、2025年7月の参院選はじめ当面の政治日程を視野に、いずれの政党も与党自民党と距離を置くこととなる。自民党と連立を組んだ結果、一緒に沈んでは元も子もないからである。
>>560
投開票日の会見で維新の馬場代表(当時)は与党入りについて「全く考えていない」「政治とカネの問題がクリアにならない以上、自公を信用するわけにはいかない」と改めて否定。国民民主党の玉木雄一郎代表も、連立政権への参加は「ない」と明言、「閣僚のポストよりも政策実現が大切だ」と説明した。
では、宙づり国会における与党との政策実現に向けた「優先交渉権」を国民民主党が得た理由は、日本維新の会が代表選挙に時間を取られたからだけであろうか。そうであれば、昨年12月1日に新代表に選出された吉村洋文代表に交渉力が生まれてもおかしくないはずだが、そうはなっていない。
年末の与党予算編成大綱に「教育無償化」の文字が修飾語として入っただけで補正予算案に賛成するなど拙い対応も手伝って、維新にバーゲニングパワーが生まれているようには全く見えないのだ。
実は、少数与党との交渉力を考えるときに参考になるのが、ゲーム理論の古典、ウィリアム・ライカーによる♦️ライカーモデルだ。政党は自党の利得=分け前をできる限り最大化しようと行動する。
投開票日の会見で維新の馬場代表(当時)は与党入りについて「全く考えていない」「政治とカネの問題がクリアにならない以上、自公を信用するわけにはいかない」と改めて否定。国民民主党の玉木雄一郎代表も、連立政権への参加は「ない」と明言、「閣僚のポストよりも政策実現が大切だ」と説明した。
では、宙づり国会における与党との政策実現に向けた「優先交渉権」を国民民主党が得た理由は、日本維新の会が代表選挙に時間を取られたからだけであろうか。そうであれば、昨年12月1日に新代表に選出された吉村洋文代表に交渉力が生まれてもおかしくないはずだが、そうはなっていない。
年末の与党予算編成大綱に「教育無償化」の文字が修飾語として入っただけで補正予算案に賛成するなど拙い対応も手伝って、維新にバーゲニングパワーが生まれているようには全く見えないのだ。
実は、少数与党との交渉力を考えるときに参考になるのが、ゲーム理論の古典、ウィリアム・ライカーによる♦️ライカーモデルだ。政党は自党の利得=分け前をできる限り最大化しようと行動する。
>>560
一方で政党は、政権につくために自らの利得を相手に分け与える。そこでは利得を分け与える相手が少なければ少ないほど良いこととなり、交渉を妥結する政党の数は少なければ少ないほど良いとなる(これを「最小勝利連合」という)。
先の総選挙では、選挙後の公認追加も含めて自公与党が196+24=220議席となり過半数233まで13足りない状態にある。先に述べたれいわ新選組の9議席では足りないが、日本維新の会38なら十分だし、国民民主党・無所属クラブ28でも十分に足りる。
ライカーモデルでは、議席数の多い政党と連合すると分け前が少なくなるので、足りない13議席を埋める(予算案を可決する)ことのでき、かつ、議席数が最小の国民民主党と連合を組むことが自民党の分け前を最大化することになる。
このライカーの最小勝利連合の理論を継承し発展させたのが、ロバート・アクセルロッドである。
一方で政党は、政権につくために自らの利得を相手に分け与える。そこでは利得を分け与える相手が少なければ少ないほど良いこととなり、交渉を妥結する政党の数は少なければ少ないほど良いとなる(これを「最小勝利連合」という)。
先の総選挙では、選挙後の公認追加も含めて自公与党が196+24=220議席となり過半数233まで13足りない状態にある。先に述べたれいわ新選組の9議席では足りないが、日本維新の会38なら十分だし、国民民主党・無所属クラブ28でも十分に足りる。
ライカーモデルでは、議席数の多い政党と連合すると分け前が少なくなるので、足りない13議席を埋める(予算案を可決する)ことのでき、かつ、議席数が最小の国民民主党と連合を組むことが自民党の分け前を最大化することになる。
このライカーの最小勝利連合の理論を継承し発展させたのが、ロバート・アクセルロッドである。
>>560
アクセルロッドは、分け前の最大化という観点に政策的要素を加味した。これは政策それ自体が政党の選好の表明であるから、ポストなどの分け前と政策実現の度合いの組み合わせから得られる利得の最大化を問題にした(これを「最小連結勝利連合」という)。
つまり、「最小勝利連合」は過半数により近い議席数となる連合だが、「最小連結勝利連合」は政策上の違いがより少なくなる連合を意味する。
いま、議席数のより多い日本維新の会より国民民主党が与党との優先交渉権を得て注目されているが、それは、ライカーモデルに従えば当然だし、加えて政策的な折り合いが良いという判断もあるのだ。
国民民主党の掲げた基礎控除等103万円の引き上げは、デフレからインフレに移行した日本経済にあって極めて合理性の高い政策>>497であり、与党の幹部も一理も二理もあると認めざるを得ない。ところが日本維新の会の掲げる高校授業料の所得制限なし無償化は、これまでの政府与党の政策と基本的に相いれない。
アクセルロッドは、分け前の最大化という観点に政策的要素を加味した。これは政策それ自体が政党の選好の表明であるから、ポストなどの分け前と政策実現の度合いの組み合わせから得られる利得の最大化を問題にした(これを「最小連結勝利連合」という)。
つまり、「最小勝利連合」は過半数により近い議席数となる連合だが、「最小連結勝利連合」は政策上の違いがより少なくなる連合を意味する。
いま、議席数のより多い日本維新の会より国民民主党が与党との優先交渉権を得て注目されているが、それは、ライカーモデルに従えば当然だし、加えて政策的な折り合いが良いという判断もあるのだ。
国民民主党の掲げた基礎控除等103万円の引き上げは、デフレからインフレに移行した日本経済にあって極めて合理性の高い政策>>497であり、与党の幹部も一理も二理もあると認めざるを得ない。ところが日本維新の会の掲げる高校授業料の所得制限なし無償化は、これまでの政府与党の政策と基本的に相いれない。