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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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だがしかし福田には単に蔵相を辞めるだけではなく、田中を首相退陣に追い込むこと― それもまた重大決意の中に含まれていた。さらに田中退陣により福田政権を作るという野心も重ね合わされていた。
三木はいま、そこまでは読まなかった。三木自身は党内の派閥関係からいっても また過去の総裁公選の実績からいっても 総裁候補になり得てもその実現が難しいという判断が前提にあったからだ。三木は全く政権欲を抜きにして 福田の重大決意を自分なりに解釈したのだった。
「ぼくも重大決意をしとるつもりだ」と三木は答えた。このとき三木はひそかに
― 参議院選挙が終わったあと、徳島選挙の勝敗がいずれに決しようと辞意を表明して田中首相の反省を求める。それを機に党の近代化、党改革を成し遂げなければならない。
という決心を固めていた。三木の言葉を聞いて 福田は満足気にうなずいてみせた。
「ひとつ一緒にやろうじゃないか」
考えてみれば この三福提携といわれるものは ある意味では奇妙であった。なぜなら左派・北京派の三木と右派・台湾派の福田、またその二つの派閥は 生い立ちも政策も思想も全く対照的であったからである。

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さきの総裁公選でも三木は日中国交正常化を掲げた田中との政策協定に踏み切り、福田には乗らなかった。
しかし今、福田の口から「重大決意」と「党改革」とを聞かされた三木は
― 今日の段階では事情が異なっている
と思わないわけにはいかなかった。一方の福田にしてみれば派閥の性格、思想、過去の経緯は抜きにして 党の近代化、改革という最大公約数で三木と提携すれば事は充分であると考えていた。早くも福田の胸中には興奮があった。
― 副総理と蔵相とがそろって、または相次いで辞表を提出するならば これは田中体制にとって確実に大きな衝撃だ。これまで田中体制は田中、大平、中曽根、三木の四派で形成されていた。その一つである三木派が脱落して自分とともに反主流に廻ることは田中体制の基礎を崩すことになる。田中退陣を早めるのに もっとも有効ではないか。
そういう興奮を福田は抑え つとめて冷静に なお三木に念を押した。
「まあいろいろと昔はあったとしても 今日から将来の段階にかけて君とぼくとの間に金権政治から脱却し党を改革するという基本的な面では一致をみた。まずはその限りにおいて提携し 緊密に連絡をとって行動しよう」

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7月7日投票の参議院選挙は その日の午後7時から一部の地方区で即日開票がスタートして ブラウン管に報道されはじめた。
この時間になると平河町にある自民党本部に橋本登美三郎幹事長、江崎真澄幹事長代理、竹下登筆頭副幹事長、水田三喜男政調会長たちがぞくぞくと詰めかけた。だれもが選挙遊説に飛び歩いたあとの日焼けした浅黒い顔つきである。
「いや、長いことご苦労さんだった」
「君のはまさかゴルフ焼けではあるまいな」
冗談が口から出るほどそれぞれ活気があった。選挙というものは いつの場合でも政党に活気をもたらすものである。しかもいまは 自民党のほとんどの人びとが
― いわれていたような保革逆転は まず阻止できたはずだ。
― うまくすれば改選議席を上回るだろう。
という読みがあったからである。
ことに橋本幹事長はこの一年間、全国候補の選定から資金作り あるいは広報活動に全力投球しつづけた。これほど参院選に力を尽くした幹事長はあるまい といわれていた。それだけに橋本には自信があった。
幹部も事務局員も担当記者たちも大部屋に集まってテレビの前に坐り込み ブラウン管に映し出される選挙速報を食い入るように見つめていた。

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8時過ぎごろから一部の地方区では「当確」が出はじめた。これらの即日開票区は地方の農村部が多いために いつも自民党は快調である。
当確が打ち出される候補は社会、公明、共産を圧して自民党が多い。当確が出るたびに橋本幹事長のうしろの壁に貼られた候補の名簿の上に 事務局員が赤いばらの造花をピンでとめた。そのつど歓声と拍手とが上がった。
しかし時間が10時、11時と経過していくにしたがって俄然 自民党の票の伸びは停滞しはじめた。橋本以下 党幹部の表情も険しくなっていった。予想外の自民党の敗北、失点が明らかになってきたのである。
― 二人区独占を狙った福島、栃木、茨城、新潟、静岡、鹿児島などでは一名を社会党に奪われた。
― 北海道では公認の西田信一、河口陽一に対して保守系無所属の高橋辰夫が割って入り 三名とも落選した。
さらに橋本たち党首脳の表情を渋くさせたのは徳島の結果で、三木派の非公認現職の久次米健太郎が当確となり 公認の田中派の後藤田正晴の落選が決まった。
こうして午前0時を過ぎ 8日未明までの間に 自民党の敗色はいよいよ深まっていった。

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8日の午前から昼にかけて 全国区の開票が進んで当確が打ち出されはじめた。
自民党ではかねての予想通り宮田輝がトップを切って いち早く当確が出たものの
「これは票の取り過ぎだ。後の候補がえらく不利になるぞ」と事務局の連中が漏らしたように 他の全国区候補は低迷状態に陥っていた。山東昭子、斎藤栄三郎などタレント候補、手堅い鳩山威一郎たちはそれなりの強みを見せて当確が出た。
当確が出てしばらくすると 山東昭子がきらびやかな表情で党本部に飛び込んできて「皆さんありがとうございました」と派手な声でいった。一斉に拍手が起こったが その底には何ともいえない沈滞があった。当選確実といわれていた山口淑子も 立ち上がりが遅かったために終盤戦では危ないといわれ 代議士たちが票集めに奔走した。ようやく当確が出たものの 意外にも低い得票数でしかなかった。開票結果は

自民党62(▲8)、社会党28(+3)、公明党14(+1)、共産党13(+9)、民社党5(▲1)

総体では自民党129、野党122で “与野党伯仲” となった。自民党にとって救われるものがあるとすれば保革逆転を阻止できたことであった。

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同じころ 三木武夫は麹町にある事務所の会議室に腰をすえて そこにしつらえられたテレビの開票速報に見入っていた。
徳島県地方区で久次米健太郎の当確が打ち出されると すぐにブラウン管は久次米事務所を映し出した。嬉し泣きする久次米の顔が浮かび上がった。
「党籍を離脱してまで私を応援してくれた武市恭信知事、陰になり日なたになって応援してくれた三木先生、感激でいっぱいです」という久次米の声が流れてきたとき 三木は黙ってうなずいた。
― これで田中に勝った。これが自分の新しい政治行動の起点になる。
開票速報が進行してゆくにつれて自民党の敗退が色濃くなっていった。このことはただ単に
「田中首相のせいだ」とは三木にもいい切れないものがあった。
なにしろ三木自身がその田中内閣の副総理で、自民党の領袖でもある。三木が感情的な人間であれば単純にその責任を田中に押しつけて快哉を叫ぶこともできたであろうが、理論家の三木にはそうはできなかった。
「三木先生、そろそろ記者会見をお願いします」
三木派担当の記者団から声がかかった。一緒にテレビを見ていた記者団の方を向き 一語一語噛みしめるように三木は語った。

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「わが党が敗退したのは 自民党が国民の求めているものに充分に応え切れなかったためだと思う。国民が現在求めているものはなにか。それは政治の追求すべきものは正義と公平であるべきだ― と思うんです。ところがいま わが党はそれを失っている。だいたい民主政治は多数決主義だから 責任政党として多数を握ることは必要だが 選挙の結果をみると国民は政治モラルを踏まえた選挙を求めているんですね。そのモラルを踏みにじった金権政治を行なったところに敗退の原因があった― 私はこう思うんです」
記者団はさらに三木に質問を投げかけた。
「徳島県の問題を含めて 選挙のあり方、党のあり方について田中首相になにか提案をするつもりですか」
三木はふっと表情を柔らげてこのように談話を結んだ。
「私は党の体質の大改革を行なう必要があり 万難を排しても党改革を行なってゆくべき時期である― と思う。それについては率直に田中総理にも意見を述べるつもりです」

自民党の敗退が決定的になったところで 福田赳夫蔵相は皮肉な笑いを浮かべていた。
― これで田中君も音をあげるだろう。
という思いだった。福田事務所は赤坂プリンスホテルの二階にある。

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そこの大部屋には例によって福田派幹部たちや担当記者団が集まっていた。自然な形で記者会見が始まった。福田は唇をへの字に曲げ 天井をにらむような姿勢でしゃべり出した。
「えーまあ 自民党が不振をきたした原因にはいろいろあるが です。進め進め一点ばりの派手な政治に 国民はもうついてゆけない、こういうことだよ」
そういって細い目で記者団をじーっとひとわたり見渡した。ブルドーザー式の強引な田中首相のやり方を 露骨に批判したものであった。
「それにこれからはだ、経済にしても党運営にしても着実な考え方、やり方に改めて国民の信頼を取り戻さなければならん」
どのみち田中に対する批判であった。
「そこで今後はどのように行動されますか」と若い記者が尋ねた。だれもがこの時点では 福田が蔵相のポストを去るとは予想しないところであった。福田は答えた。
「そうだね、自民党は今までの政策、政治姿勢が正しかったのかどうか、それを反省しなければならん。国や党を誤らせないように憂党の同志と共に党内にはたらきかけたい……」
「憂党の士……というのは副総理のことですか。いよいよ三福連合をはっきり打ち出すつもりで……」

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「いや そこまで具体的にはいわんがね。単に三木君のみならずだ、憂党の士はたいへんに多いんじゃないか。そういった人たちと一緒にやってゆく。今後は政治資金や選挙運動のあり方、政治の基本姿勢について改革案を提案して行きたい― 私はこう考えています」

田中角栄首相が自民党本部で記者会見を行なったのは 翌9日の午前9時前からであった。田中はさすがに苦い笑いを浮かべながら
「……昨夜は全くよく寝た。世間では果報は寝て待てというが……寝もせずに走り回った割には選挙の結果は厳しかったねェ……」
そういって席に着いた。
このとき記者団の頭の中を占めていたのは内閣改造、党役員の改選問題だった。田中はしばしば
「参院選後、内閣改造はやらない」と言明してきてはいるが 参院選に敗北したことで事情は変わったはずだというのが記者団の認識だった。
― 党内批判に応え責任をとる必要上、橋本幹事長はじめ三役の改選。
― また三木、福田との融和、提携をはかり政局を乗り切るためにも挙党一致的な内閣改造。
それを記者団は常識として予想していた。
「内閣改造、役員改選は行ないますか」と幹事役の記者が尋ねた。田中は厳しい表情になって答えた。

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「考えていません。私はいままでもやらない……と記者諸君にもはっきりと答えてきたはずだ」
この記者会見はテレビ中継によって流されていた。
ブラウン管をにらむように凝視していた福田は 傍にいた秘書に
「すぐに保利行管庁長官に電話だ」といった。世田谷の私邸である。
「保利先生が お出になりました……」福田は受話器を受け取った。
「ああ 保利君。いまの角さんの記者会見、見ていたかね」
「うむ 見ていた」
「内閣改造も役員改選もやらん……角さんはそういっとるが、いったいどうするつもりなのかね。選挙が負けたというのに まるきり反省がないじゃないか。このまま放っておけば各派から責任追及の声があがる」
「自分も心配はしとる」
「そこで保利君、君がじっくりと角さんの肚のうちを聞いてみてくれんか……」
「あまり有り難い役じゃないが……」
保利はそういいながらも承知した。
田中首相の下で福田は枢要ポストの蔵相の地位に居ながら閣議、閣僚懇談会などで経済、財政について話はするものの、二人だけでじっくり会うということはなかった。そのあいだは完全に冷えているのだ。
福田としては 自ら田中に会って突き詰めて話そうという気は毛頭ない。

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