010 年変はりて、宮の御果ても過ぎぬれば、世の中色改まりて、更衣のほどなども今めかしきを、まして祭のころは、おほかたの空のけしき心地よげなるに、前斎院はつれづれと眺めたまふを、前なる桂の下風、なつかしきにつけても、若き人びとは思ひ出づることどもあるに、大殿より、 「御禊の日は、いかにのどやかに思さるらむ」 と、訪らひきこえさせたまへり。 「今日は、 かけきやは川瀬の波もたちかへり 君が禊の藤のやつれを」 紫の紙、立文すくよかにて、藤の花につけたまへり。折のあはれなれば、御返りあり。 「藤衣着しは昨日と思ふまに 今日は禊の瀬にかはる世を はかなく」 とばかりあるを、例の、御目止めたまひて見おはす。 御服直ぶくなおしのほどなどにも、 宣旨せんじのもとに、所狭きまで、思しやれることどもあるを、院は見苦しきことに思しのたまへど、 「をかしやかに、けしきばめる御文などのあらばこそ、とかくも聞こえ返さめ、年ごろも、おほやけざまの折々の御訪らひなどは聞こえならはしたまひて、いとまめやかなれば、いかがは聞こえも紛らはすべからむ」 と、もてわづらふべし。 匿名さん2025/02/08 17:33